SMARCA4 (BRG-1)-deficient thoracic sarcoma

細胞のリプログラミング-- 成熟した細胞がリプログラミングによって多能性を獲得する

1962年 Jhon B. Gurdonは未授精卵を脱核し, オタマジャクシの小腸上皮細胞の核を移植することで生体のカエルを作成することに成功した.
この発見は, 脊椎動物体細胞はたとえ分化したも同じゲノム情報をもち, 一度分化した細胞核でも初期化しうる(リプログラミング)ということを証明した.

2006年には山中らがマウス線維芽細胞に4つの転写因子, Oct3/4, SOX2, Klf4, c-Myc (山中因子/OSKM因子と呼ぶ)を導入することでES(embryonic stem cell)細胞に似た性質をもつiPS細胞(induced pluripotent stem cell 人工多能性幹細胞)を作製することに成功し, 哺乳類の細胞も初期化(reprograming)が可能であることを示した.

iPS細胞はES細胞と同じく, 自己複製機能と多分化能をもち, 自己の細胞から作り出すことが可能である.

2012年 J.B Gurdon, S. Nakayamaに 成熟した細胞がリプログラミングによって多能性を獲得するという発見について (for the discovery that mature cells can be reprogrammed to become pluripotent) ノーベル医学生理学賞が授与された.

近年では 細胞特異的な運命制御因子(マスター因子)を強制的に発現させることで細胞の運命をさまざまな細胞に直接転換させる(direct reprograming)の報告もなされている.
これらの細胞リプログラミング研究から細胞の運命が遺伝子塩基配列の変化を伴わず, DNAメチル化やヒストン修飾といったエピゲノム変化の誘導により転換されることが示されてきた.

Oct3/4, Nanog, SOX2 -- 細胞のリプログラミング, 多能性維持における機能

ES細胞

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哺乳類発生初期段階の胚盤胞期(blastocyst stage)の内部細胞塊(innner cell mass)より樹立される幹細胞株.*1

ES細胞は生殖細胞を含む個体すべの細胞に分化可能であるにもかかわらず無限の自己増殖能をもっている.

  • 受精卵または核移植により生成された受精卵相当の細胞は, 卵子, 精子など生殖細胞を含むすべての通常の専門化した細胞を生み出すことが可能である. このような状態の細胞を万能(totipotent)と呼ぶ.
     
  • ほとんどの細胞種を生み出すが, 自己更新, 増殖能力をもたず, 進行する分化のプログラムにのっている前駆細胞は幹細胞ではなく, 多能(pluripotent)と呼ぶ.
     
  • ES細胞(胚性幹細胞)は適切な培養条件下では, 際限なく増殖し続けるにもかかわらず無限の発生能力をもっている. この細胞の唯一の限界は, 胎盤などの胚外の組織(外細胞塊由来)をつくりだせないことである.
    このため, ES細胞は万能ではなく, 多能であるといわれる.
     
  • このES細胞の制約はとるに足りないもので, 胞胚期の環境にもどすと, 胚に取り込まれあらゆる種類の組織や細胞を生じる. 生成した細胞はどんな場所でも, 正常な細胞がその場で示す性質をもち振る舞いをする. ES細胞からは, 生殖細胞も生じる.

試験管内ES細胞において遺伝子配列を変更し, 個体を作製することによりノックアウトマウスなどの多くの遺伝子改変動物をつくりだすことができる. ES細胞は再生医療, 病態解明, 治療薬開発などにツールとして重要な役割をはたしている.

ES細胞の多機能維持にOct3/4およびNanogを中心とする転写ネットワーク形成が重要な役割をはたしていることが明らかとなってきている.

Oct3/4

POU(Pit-Oct-Unc)ファミリーに属する転写因子. Oct3/4はoctamer DNA配列(5'-ATGCAAAT-3')に結合し, 転写を活性化する.

Oct3/4は個体発生過程初期の内部細胞塊細胞や, 生殖細胞など多能性をもつ細胞に特異的に発現する. 内部細胞塊より樹立されるES細胞にもOct3/4は高発現する.

発生初期の細胞やES細胞は分化に伴いOct3/4の発現を失う. Oct3/4を欠損させた初期胚では内部細胞塊が形成されず胎盤形成に関係する栄養膜細胞塊(外細胞塊)のみが認められることから''Oct3/4は多能性維持に必須と考えられる. 他方, ES細胞にOct3/4を強制発現させると神経への分化が認められる. 多能性維持にはOct3/4の適切なレベルを保つことが必要である.

Nanog

Nanogはホメオボックス転写因子であり, Oct3/4と同様に個体発生初期の内部細胞塊細胞や生殖細胞に発現している.
遺伝子, Nanog; Nanog homeoboxは12p13.31 に局在する(Exon count:4 )DNA結合ホメオボックス転写因子Nanogをコードする. 遺伝子には, 2つの転写バリアントが見つかっている.

Nanogも多能性維持に重要な役割を果たしている. --名前の由来はケルト語の「常若の国 Tir Na Nog」からつけられた.

  • Nanog欠損ES細胞は徐々に分化し, Nanog欠損初期胚では原始外胚葉が形成されない. Nanogは原始外胚葉維持に重要である.
     
  • ES細胞にNanogを強制発現させても未分化状態は維持され, Oct3/4とは特徴が異なる.
     
  • NanogノックアウトES細胞は分化しやすくなるが多能性は保たれ, 多能性の転写因子ネットワークに必須ではない. Nanog強制発現によりES細胞分化を抑制できることなどからNanogは多能性を安定させる因子とみられている. *2
     
  • Nanogの発現抑制にいくつかの因子がかかわっていることが報告されている. Nanogプロモータ領域にはp53や癌抑制遺伝子かつ神経関連分化遺伝子であるRest/Nrsfの結合部位が存在し, p53やRestにより発現が抑制されている.
     

SOX2

Oct3/4が制御する遺伝子には, しばしば octamer配列とSox因子結合配列が隣接するエンハンサー構造が認められる(以下 Oct-Sox エンハンサー ).
Oct-Soxエンハンサー依存性遺伝子には, Fgf4, Utf1, Nanogなど多能性幹細胞特異的に発現する遺伝子の大多数が含まれている.*3

Oct-Soxエンハンサーにin vitroで結合するSox因子として最初に同定されたのがSox2(SRY-box containing gene 2)である.*4

3q26.33に局在する遺伝子 SRY-box transcription factor 2(exonは1つ)にコードされるタンパク質SOX2は転写因子で幹細胞の自己増殖に重要な役割を果たす.

Sox2はDNA結合部位であるHMG(high mobility group)ドメインとそのC末端側の転写活性化ドメインから構成され, HMGドメイン内には2つの核移行シグナル配列が存在し, おもに核内に局在する. *5

転写活性化ドメインは3つのサブドメインからなり, HMGドメインとOct3/4のPOUドメインとの相互作用を介してOct-Soxエンハンサーの活性化を行うとされている. 生体内ではSOX2は内部細胞塊, 生殖細胞や神経幹細胞などに発現している.*6

Sox2のノックアウト初期胚でも内部細胞塊からES細胞は単離できないことが報告されており, Sox2は多能性維持に必須の転写因子である. *7

線維芽細胞のリプログラミングによるiPS細胞生成

Nakayama-factor.jpg

マスター遺伝子調節タンパクの Oct3/4, Sox2, Klf4は自身および相互の合成を誘導する. これにより自己継続型フィードバックループが形成され, 実験的に加えられたすべての開始中山因子を取り除いても細胞が胚性幹細胞のような状態を維持できるようになる.

中山因子強制発現によるiPS化は効率が悪い(最初の実験では数千に1個の作成確率)だけでなく速度も遅い. 線維芽細胞が転換因子(中山因子)を導入され, iPSマーカを発現するまでに10日以上かかる.--転換には長時間にわたる変化の連鎖(カスケード)が必要であり, これらが個々の遺伝子の発現とクロマチン状態の両方に影響を与えている.

c-Myc誘導細胞増殖とクロマチン構造のゆるみにゲノム上の数百もの異なる部位に他の3つの因子, Oct3/4, SOX2, Klf4がそろって結合が促進されることから開始される.

正の自己継続型フィードバックループを形成し, 自己継続的に発現するようになったOct3/4, SOX2, Klf4は, ターゲット遺伝子を活性化するだけでなく, 他の遺伝子を抑制し, 遺伝子制御系を全体的およびすべての段階において再構成する効果の連鎖を生じ, 無数のタンパク質と非翻訳RNAの発言と同様にヒストン修飾やDNAメチル化, クロマチン凝縮パターンを変化させる.

この複雑な過程に最終段階では, 作成されたiPS細胞は変化の引き金となった人為的に作成された因子にはもはや依存することなく遺伝子発現が調節され, Oct3/4, SOX2, Klf4, Mycおよび多能性幹細胞に必須なすべての成分を自身の内因性遺伝子のコピーから自身でつくりだす安定, 自立した状態に落ち着く.


*1  Evans MJ, Kaufman MH. Establishment in culture of pluripotential cells from mouse embryos. Nature. 1981 Jul 9;292(5819):154-6. doi: 10.1038/292154a0. PMID: 7242681
*2  Chambers I, et al Nanog Safeguards Pluripotency and Mediates Germline Development Nature 2007 Dec 20;450(7173):1230-4.PMID: 18097409 DOI: 10.1038/nature06403
*3  Niwa H. How is pluripotency determined and maintained? Development. 2007 Feb;134(4):635-46. doi: 10.1242/dev.02787. Epub 2007 Jan 10. PMID: 17215298
*4  Yuan H, et al. Developmental-specific activity of the FGF-4 enhancer requires the synergistic action of Sox2 and Oct-3. Genes Dev. 1995 Nov 1;9(21):2635-45. doi: 10.1101/gad.9.21.2635. PMID: 7590241
*5  Jun Li, et al. A Dominant-Negative Form of Mouse SOX2 Induces Trophectoderm Differentiation and Progressive Polyploidy in Mouse Embryonic Stem Cells J Biol Chem 2007 Jul 6;282(27):19481-92.PMID: 17507372 DOI: 10.1074/jbc.M702056200
*6  Ambrosetti DC, et al.Modulation of the Activity of Multiple Transcriptional Activation Domains by the DNA Binding Domains Mediates the Synergistic Action of Sox2 and Oct-3 on the Fibroblast Growth factor-4 Enhancer. J Biol Chem 2000 Jul 28;275(30):23387-97. PMID: 10801796 DOI: 10.1074/jbc.M000932200
*7  Avilion AA, et al. Multipotent Cell Lineages in Early Mouse Development Depend on SOX2 FunctionGenes Dev 2003 Jan 1;17(1):126-40. PMID: 12514105 PMCID: PMC195970 DOI: 10.1101/gad.224503

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Last-modified: 2020-06-02 (火) 19:54:55 (62d)