第8回東京骨髄病理研究会
聖マリアンナ医科大学 磯部先生のご講演をもとに作成
顆粒リンパ球増殖疾患 granular lymphocyte proliferative disorders †
Granular lymphocyte(GL)-proliferative disorders(GLPD)とは末梢血中でGLがクローン性に増殖する疾患.*1*2
いろいろな疾患がふくまれるので「s」がつく. (myelodysplastic syndromesと同じ.)
WHO分類の造血器腫瘍としては以下が相当する. †
1. T-cell large granular lymphocytic leukaemia(T-cell LGL)
- T-CLL(T細胞慢性リンパ球性白血病)のひとつとしてFAB分類で扱われていたが, WHO分類では独立した疾患として定義されている.
症状や臨床経過が緩徐で穏やかなため白血病よりも, 意義不明なクローナルリンパ増殖症との考え方が優位になってきている.
2. chronic lymphoproliferative disorders of NK cells(暫定疾患)
3. aggressive NK cell leukaemia (ANKL)
4. EBV-positive T-cell lymphoproliferative disorders of childhood
- Systemic EBV-positve T-cell lymphoma of childhood, CAEBV of T/NK type systemic form,
Hydroa vacciniforme-like lymphoproliferative disorder, Severe mosquito bite allergy
LGL 顆粒リンパ球、大顆粒リンパ球 †
- 骨髄, 末梢血に大顆粒リンパ球浸潤, 増加, 脾腫, 血球減少(ほとんどが好中球減少)を呈するクローン性の大顆粒リンパ球増殖症.
- LGLはリンパ球の形態を示す細胞で, 循環リンパ球中でもサイズが大きく(*), 細胞質に大型のアズール顆粒をもつ. 顆粒にはacid hydrolaseが含まれている.
- acid hydrrolase 酸性加水分解酵素; 酸性pHで最適に機能する酵素. 一般的に内部が酸性であるリソソームに局在する.
酸性加水分解酵素は、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、ホスファターゼ、スルファターゼおよびホスホリパーゼなどからなり, リソソームの約50の分解酵素を構成している.
- LGLは末梢血中単核球の10〜15%を占め絶対数の正常値は, 200 から 400/μL.
- LGLは2つの細胞系統より構成されている. 形態的に2つを区別することは困難.
- 85%は, CD3, CD57陽性, CD56陰性のT細胞で, 抗原により賦活化された effector-memory cytotoxic T cellである.
- 残りの15%は, sCD3-, cyCD3(CD3ε)+, CD56+, CD16+の natural killer (NK) cellである. FCMではCD3-, 免染ではCD3+(抗体によるため要注意)
- Large granular lymphocyteの形態
正常 Large granular lymphocyteの直径は, 14μm, またはそれ以上である; healthy controlのリンパ球58%のサイズは13μmよりも小さかった.
一方, アズール顆粒をもつリンパ球はよりサイズの大きな, 14μm の集団を形成していた.*3--正常赤血球のほぼ2倍のサイズ. (normal red cell; 7μmx2)と記憶するんだよ.
このとき*3のhealthy control リンパ球のサイズは12.5μmと, <13μmでありLGLは正常リンパ球サイズより大きい.
もっとも, 本来「large」はgranuleにかかる形容詞であり大型リンパ球の意味ではない.
- 豊かな細胞質にアズール顆粒を3個以上認める. 顆粒は, 微細なことも粗造で大型なこともある. 核は腎臓型, 類円形で, N/C比は高い.
- 5%のLGL患者さんでは, 典型的な免疫染色phenotypeを示すが, 顆粒がみとめられない.
T-cell LGL leukaemia †
末梢血の所見
- T-LGL leukaemiaのリンパ球は, わずかに増加するが正常のことがある. リンパ球絶対数中央値は8000/μl(正常; 1000-4000/μl).
- WHOの診断基準では, LGL絶対数は増加しているとされ, LGLが2000/μlをこえて. [中央値は4200/μl(正常; 200-400/μl)] 6か月以上持続するとされるが
このような症例は少なく, 血球減少のある症例では1000/μl前後の症例が多いのが実際である(Dr.磯部の講演)
- LGLがclonalなことが証明可(リンパ球のclonalな増加は腫瘍なのか増殖なのか判定がむずかしい), 典型的な臨床症状 and/or 自己免疫疾患の合併があれば, LGL数が500−2000/μlであってもLGL leukaemiaと診断ができる.
- 正常のLGLは小リンパ球よりも大型であるが, GLPDでクロナールに増加するLGLのサイズは種々のものが認められる.
とくに
- T-LGLの増殖症では小型のLGLが増殖する症例が存在することが重要(直径の中央値は <13μm )*3
また,
STAT3 SH2ドメイン変異をもつGLPDでは変異のないGLPDにくらべより小型細胞が増殖する症例があることを知っておく必要がある.*3
侵襲をうけた組織, 臓器にはクロナールなT-cell系のLGLが浸潤している.
骨髄所見
- 骨髄は90%の症例で病変を認め, interstitial patternをとり, わずかな細胞浸潤がある.
- hypocellular, normocellularあるいは軽度の弾性線増生をともなったhypercellular marrowが見られる.
- 典型的には成熟好中球成分の増加(左方移動)を示す.
- 通常monoclonalなLGLは単核細胞の50%未満にとどまる.
- interstitialあるいはintrasinusoidalにクロナール(悪性の)CD8陽性T-cellが浸潤している. polyclonalなT-cellとB-cellのリンパ球集簇や結節を伴っている.
- 血管内(intravascular)にCD8+, TIA1またはgranzymeB陽性のリンパ球が線状に配列する所見がT-cell LGL leukaemiaでは67%に, 一方25例の正常コントロールではまったく認められなかったとする報告がある.
脾臓の組織所見
- 脾臓はほぼ普遍的に侵襲をうける. 類洞, 赤脾髄へcytotoxic granule(TIA-1, granzymeB, perforin)陽性のリンパ球様細胞が浸潤. CD45RO(UCHL-1), CD5は陰性.
白脾髄は保たれている. 正常胚中心の拡大が認められる.
- リンパ系腫瘍の多くは白脾髄を中心に侵襲するが, T-LGLに加えて, T-PLL, Hairly cell leukemia, Hepatosplenic T-cell lymphomaは赤脾髄を中心に浸潤し, 鑑別が必要になる.
肝臓の所見
リンパ節
- 通常リンパ節は侵されない. 浸潤する場合はparacorticalにLGLとplasma cellが認められる.
臨床症状
- 発症年齢中央値は60歳. 25歳未満はまれ. 多くは成人(45-75歳)に発症する. 性差なし.
- T-cell LGL leukaemiaは緩慢な経過を示す細胞障害性T細胞増殖疾患でしばしば, リウマチ性関節炎,SLEなどの自己免疫性疾患および
好中球減少症やpure red cell aplasia(赤芽球癆)など血球減少を合併する. 臨床的には血球減少の原因としてT-LGLが潜在することが問題となる.
- 本邦では諸外国の報告例に比べてPRCAの頻度が高くなっているようです(Dr磯部講演)
- 臨床症状は白血球減少 leukopeniaによるものが多い.
- 細菌感染を伴う繰り返す感染症が20-40%に発症する. 皮膚感染, 鼻咽頭感染, 肛門周囲感染が認められることが多いが, 敗血症や肺炎を起こすこともある.
- 検査でT-LGLの診断につながる, 血球減少がわかったときに無症状で健常である患者さんは1/3になる.
- TCRδγ陽性T-LGLもTCRαβ陽性T-LGLと症状はかわることはない.
- LGLは慢性疾患であり, 時間の経過とともに徐々に造血細胞数が減少する.
- Mayo ClinicのT-LGL203症例では14%(28例)が, 発症時にpancytopeniaを示し, 8例はaplastic anemiaを起こした*4 ほとんどの症例は少なくとも1系統の血球減少を呈した.
Neutropenia
多くのT-LGL患者さん(84%)は慢性好中球減少症をきたす. 1/2は好中球の絶対数が<500/μlとなる.
時に, 成人発症の周期性好中球減少症をおこすことがある.
文献によると, 周期性好中球減少症, 成人3例にはLGL増加が認められ, 小児例にはみられなかったと報告されている.*5*6
Anemia
T-LGLの50%に貧血が認められる. 輸血が必要な強度の貧血は20%.
Mayo ClinicのT-LGL-Lでは, oval macrocytosisが23%に認められ, 別のMayo clinicシリーズでは, 成人 pure red cell aplasia47例のうち, LGLが最も多い基礎疾患であった.
貧血には異なる基礎の原因があるが, 多いのは, Coombs陽性自己免疫性溶血性貧血とpure red cell aplasiaである.
Thrombocytopenia
20%に中等度症の血小板減少が認められる. 血小板抗体が生成されるためにITPとの鑑別が困難となる.
脾腫があると血小板減少に影響する.
無血小板血症患者さんに Megakaryocytic colony forming unit(CFU-MK)を腫瘍性LGLが特異的に阻害することが報告されている.
B症状; 20-30%に典型的なリンパ腫B症状が認められる.
- 過去6ヵ月の間に, 10%を超える体重減少
- 感染症がないにもかかわらず38℃の発熱が, 2週間以上持続する.
- 感染なしの状況で寝汗が認められる.
脾腫; 身体所見で20-50%に軽度から中等度の脾腫がみられる. 肝腫大は20%までに出現.
リンパ節腫大は1-3%と少なく, 皮膚病変もまれである.
T-LGL leukaemia case 01 †
IWT case 67 y.o. male
数年来, 軽度の大球性貧血でfollow upされていたが徐々に進行, Hb;12.0g/dlから8.0g/dlへ低下. 紹介となる.
Bone marrow組織所見(clot section);
 |  |  |  |
ASD-Giemsa | ASD-Giemsa | ASD-Giemsa | ASD-Giemsa/ CD3 |
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ASD/ CD3 | CD3/ CD20 |
 |  |
CD8/ CD4 | TIA1/granzymeB |
CD4陽性細胞の多くはマクロファージ. CD8+, toxic molecule+ のT-cellが増加している.
Smear所見(末梢血, 骨髄);thumb nailをクリックすると大きな画像が見られます.
骨髄
 |  |
BM x100 | BM x100 |
本症例ではアズール顆粒は微細なものが多かった. 顆粒の乏しいLGLも多い. BMではLGLを確定するのが難しい.
T-LGL leukaemia case02 †
IWT-case02 69yo male.
朝のこわばり, 上肢関節痛により近医受診. 検査値においてγグロブリン高値, 好中球減少(5%)あり, 血液疾患を疑われ紹介入院となる.
Mタンパクなし. 好中球数200/μlで無顆粒球症と診断された. 肝脾腫なし, リンパ節腫大なし.
 |  |
FCM histogram | FCM dot plot |
骨髄FCM. CD3+, CD5+, CD7+, CD8+, CD57+, CD56-, TCRγδ+のT-cell集団が検出されている. CD16陽性はどう解釈すればよいのか。単球/マクロファージの増加もあるように思われる.
末梢血, 骨髄スメア
Hb 13.3g/dl, RBC 467x104/μl, Ht 39%, MCV 83.5fl, MCHC 34.1g/dl,
WBC 3800/μl, st. 1%, seg. 4%, Eo 2%, Ba 0%, Mo 15%, Ly 67%, 顆粒リンパ球 11.0%, atypical Ly 0%. plt. 24.3x104 . LDH 168 U/L
Rheumatoid factor(+), 抗核抗体(+), 抗CCP(cyclic citrullinated peptides)抗体強陽性. 慢性関節リウマチの診断. 核型; 46,XY[20] 正常男性型.
- 抗CCP抗体(抗シトルリン化ペプチド抗体[Anti-cyclic citrullinated peptides antibody])は、シトルリン化蛋白の一つであるフィラグリンのシトルリン化部位を含むペプチドを環状構造とした抗原(CCP:cyclic citrullinated peptide)を用いて検出される自己抗体である。
- 関節リウマチ(RA)患者の関節滑膜には多くのシトルリン化蛋白が発現し、血清中にはシトルリン化抗原に対する自己抗体が産生されている。 抗CCP抗体はRAに対する高い特異性と感度を有し、RA発症早期から陽性となるため、RAの早期診断、確定診断に有用である.
STAT3 SH2変異とT-LGL †
文献*7