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主要なムチン分子

ムチン(mucin)は動物の腸管,気道,口腔,子宮などの粘膜に見られる粘性物質で細胞保護,外界から身体内部に侵入しようとする異物を防ぐ免疫機能および,その糖鎖構造による細胞間相互作用(白血球、細菌、ウイルスとの受容体としての働き)などを担っている.この粘液蛋白の主成分がムチンと呼ばれる, 糖鎖を多量に含み分子量が数百万と非常に大きな糖タンパク質です。ムチンは均一のものではありません

ムチンはプロリン, スレオニン, セリンに富むコア(中心)となるタンパク質分子に多量のo-linked 糖鎖が結合しています。ムチンコアタンパク質(MUC)遺伝子は,現在ヒトで MUC1, MUC2, MUC3(A, B), MUC4, MUC5AC, MUC5B, MUC6-13, MUC15-19の20種類知られ,それぞれは異なった組織の細胞で発現しています。 ムチンは分泌型と膜貫通型の大きな二つのカテゴリーに分けることができる。分泌型ムチンは11p15に遺伝子が存在し共通の祖先遺伝子から進化したと思われるが,すべてのMUC遺伝子が共通の祖先遺伝子から進化したとは考えられない

分泌型ムチン

  • MUC2, MUC5AC, MUC5B, MUC6
  • これらムチンのコアタンパク質遺伝子はいずれもヒト11p15.5に存在するため11p15ムチンとも呼ばれ, 構造に類似性が見られる。

膜結合型ムチン

  • MUC1, MUC3A, MUC3B,MUC4, MUC11,MUC12,MUC13などが含まれる
  • いずれのMUCも膜貫通ドメインをもつ
  • MUC3A,MUC3B,MUC11,MUC12の遺伝子は染色体 7q22に存在する。
  • MUC4,MUC13の遺伝子は染色体3q29に存在します。
  • MUC7とMUC8は上記のいずれにも属さず,お互いに共通性はみられない。

主要なムチン一覧

ムチンくり返し部分のアミノ酸配列(アミノ酸数)主要な発現部位染色体上の位置
MUC1膜結合型PDTRPAPGSTAPPAHGVTSA(20)乳腺,膵臓腺房中心細胞・介在部1q21
MUC2分泌型PTTTPPITTTTTVTPTPTPTGTQT(23)小腸, 大腸, 気道11p15
MUC3膜結合型HSTPSFTSSITTTETTS(17)小腸, 大腸, 胆嚢7q22
MUC4膜結合型TSSASTGHATPLPVTD(16)大腸, 気道3p29
MUC5AC分泌型TTSTTSAP(8)胃(胃腺窩上皮), 気道11p15
MUC5B分泌型SSTPGTAHTLTMLTTTATTPTATGSTATP(290)食道腺細胞,気道, 唾液腺11p15
MUC6分泌型省略 S(30) T(52) P(25) (全体169)胃幽門腺・噴門腺,胃副細胞,十二指腸Brunner腺,食道噴門腺, 胆嚢11p15
MUC7分泌型TTAAPPTPSATTPAPPSSSAPG(22) NCBI-NP_689504.1唾液腺Ch4
MUC8分泌型TSCPRPLQEGTPGSRAAHALSRRGHRVHELPTSSPGGDTGF(41)気道Ch12

注:MUC6のくり返し配列は省略し、主要なアミノ酸とくり返し配列全体の残基数のみを示した。

正常組織における局在より,通常,MUC5AC,MUC6は胃型(それぞれ,胃腺窩上皮型(胃表層型),幽門腺型)の粘液(ムチン)形質のマーカー,MUC2は腸型(杯細胞型)の形質マーカーとして扱われている

粘液蛋白(ムチン)と消化器疾患

  • 癌などの異常粘膜と正常消化管粘膜では量的あるいは質的にMUC遺伝子の発現が異なる
  • 胃粘膜には、MUC1、MUC5A/C、MUC6が主に発現しているが、
  • 腸上皮化生粘膜ではMUC2、MUC3の発現がみられるようになる。
  • 胃癌へ進展するとムチン遺伝子のmRNAのパターンが大きく変化する
    • MUC5、MUC6が減少するとともに
    • MUC3、MUC4が増加してくる。
  • 消化管病変におけるmucin産生や分泌、糖鎖付加の分子機構についてはなお不明な点が多い。  
  • 小腸ではMUC2、MUC3の発現が非常に多い
  • 大腸ではMUC2が最も豊富に存在する
  • 最近では炎症性腸疾患とムチン遺伝子との関係も報告されている。
    • ムチンの繰り返し配列が変化することによりムチン蛋白の長さに異常を来すことがある。
    • 潰瘍性大腸炎では正常者と比較してMUC2の繰り返し配列部分が変化するといわれている

関連文献---fileUCandMuc.txt

病理組織のムチン免疫抗体染色

いむーの(埼玉医科大学伴先生のページ)mucinのページへリンク

  • MUC1の染色
    • MUC1-core抗体 (Ma552,Novocastra)--エピトープはMUC1コア蛋白
    • MUC1抗体(Ma695, Novocastra)--エピトープはcarbohydrate epitope
  • MUC1は膜結合型ムチンで正常組織では膵、乳腺に発現している
  • MUC1の抗体は50以上あり、それぞれが検出するアミノ酸エピトープやグライコフォーム(糖鎖の付加状況)に大きな違いがあるため染色結果が異なる
  • 膵腫瘍において予後不良な浸潤性膵管癌はMUC1陽性・MUC2陰性であり, 予後の良好なIPMNはMUC1陰性・MUC2陽性とする報告がある*1
  • MUC5ACとMUC6
    • ともに分泌型ムチンで正常胃粘膜に出現するが、その分布が異なっている。MUC5ACは表層粘液細胞にみられるのに対し, MUC6は主に幽門腺にみられる。IPMNの研究ではMUC5ACが乳頭状増殖病変上層に, MUC6は乳頭状増殖病変基底部近傍に発現, 正常胃粘膜の発現パターンを模倣していることが示されている*2

肺・気管支のMucin発現

  • MUC1, MUC2, MUC3, MUC4, MUC5AC, MUC5B, MUC7, MUC8, MUC13の少なくとも9種のmucin発現が確認されている
    • 腺毛上皮細胞にはMUC1, MUC4
    • 杯細胞ではMUC5AC
    • 粘膜下線粘液細胞にはMUC5B, 漿液細胞にはMUC7が産生されている。
  • MUC5B, MUC5ACのmRNA発現量は慢性副鼻腔炎患者で有意に高い
  • 正常ではMUC5AC蛋白は副鼻腔上皮に、MUC5B蛋白は粘膜下腺に低レベルで発現しており、炎症をおこした副鼻腔粘膜ではMUC5ACは粘膜上皮杯細胞に、MUC5Bは粘膜下腺のみでなく副鼻腔粘膜上皮に発現している*3
  • MUC5Bは炎症時に通常発現しない粘膜表面に発現亢進が認められるものと考えられる*4

分泌型ムチンの産生調節シグナル

分泌型ムチンの産生調節に関与する物質

  • サイトカイン(IL-1beta,IL-6,TNF-alpha, IL-4,IL-9,IL-13)
  • 成長因子(EGF,TGF-alpha)
  • バクテリアエンドトキシン(LPS)
  • レチノイド
  • ホルモン
  • 神経ペプチドなど

分泌型ムチン産生シグナル

  • EGF-R/Ras/Raf/ERKシグナル経路が最もよく知られている

*1 Osako M et al., Immunohistochemical study of mucin carbohydrates and core proteins in human pancreatic tumors Cancer 71:2191-2199, 1993
*2 Horinouchi M,et al., Expression of different glycoforms of membrane mucin(MUC1) and secretory mucin (MUC2, MUC5AC, and MUC6) in pancreatic neoplasia Acta Histochem. Cytochem 36: 443-453, 2003
*3 Kim DH et al., Arch Otolaryngol Head Neck Surg 130: 747-752, 2004
*4 松下育美ほか 生体の科学56(5): 494-495, 2005

添付ファイル: fileUCandMuc.txt 1268件 [詳細]

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Last-modified: 2014-08-29 (金) 12:41:20 (1756d)