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Neurotrophic tyrosine kinase receptors †
受容体タンパク質は3種類; TrkA, TrkB, TrkC. 別名が多くて混乱してしまう.*1
トロポミオシン受容体キナーゼA(TrkA)
別名
- 高親和性神経成長因子受容体(high affinity nerve growth factor receptor)
- 神経栄養性チロシンキナーゼ受容体1型(neurotrophic tyrosine kinase receptor type 1)
- TRK1変換チロシンキナーゼタンパク質(TRK1-transforming tyrosine kinase protein)
- コードする遺伝子はNTRK1
- リガンドは, 神経成長因子(NGF)のみ.
トロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)
別名
- チロシン受容体キナーゼB(tyrosine receptor kinase B)
- BDNF/NT-3成長因子受容体 (脳由来神経栄養因子:brain-derived neurotrophic factor (BDNF)/NT-3 growth factors receptor)
- 神経栄養性チロシンキナーゼ受容体2型(neurotrophic tyrosine kinase receptor type 2)
- コードする遺伝子はNTRK2
- リガンドは脳由来神経栄養因子(BDNF), NT-4およびNT-3
トロポミオシン受容体キナーゼC(TrkC)
別名
- NT-3成長因子受容体(NT-3 growth factor receptor)
- 神経栄養性チロシンキナーゼ受容体3型(neurotrophic tyrosine kinase receptor type 3)
- TrkCチロシンキナーゼ(TrkC tyrosine kinase)
- ヒトではNTRK3 遺伝子によってコードされる
- リガンドは, NT3のみ.
Neurotrophin ニューロトロフィン
- ニューロトロフィンは, ニューロンの生存, 発達, 機能を誘導するタンパク質ファミリーである.一般的に構造的に関連する4つの因子:神経成長因子(NGF), 脳由来神経栄養因子(BDNF), ニューロトロフィン-3(NT-3), ニューロトロフィン-4(NT-4)をいう*2.
- これらタンパク質は, 成長因子のクラスに属し, 神経栄養因子として知られている. 神経栄養因子は、標的組織から分泌され、関連するニューロンがプログラム細胞死を開始するのを防ぐことにより作用する.ニューロトロフィンは, 前駆細胞の分化も誘導し, ニューロンを形成するほか, 特定の細胞にシグナルを送り,生存, 分化, 成長をうながす*3
- Trksはこれらニューロトロフィンの作用を受容体として伝達している.
NTKR 構造と機能 †
- すべてのTRK受容体は 細胞外リガンド結合ドメイン(extracellular ligand-binding domain), 膜貫通部 (transmembrane region) と 細胞内三リン酸化アデノシン結合ドメイン(intracellular adenosine triphosphate-binding domain) からなる. 2-6
- TRK受容体はリガンドであるneurotropinが受容体の細胞外ドメインに結合すると活性化される.
- リガンドであるneurotropinは各受容体ごとに特異的に決まっており, NGF(nerve growth factor)はTRKAを活性化し, brain-derived neurotrophicgrowth factor (BDNF)とneurotrophin 4/5 はTRKBを活性化する. neurotrophin3はTRKCに結合して活性化する.
- リガンド-受容体の結合によりreceptorはホモ二量体形成をおこし, キナーゼドメインが活性化される. 次いで, 中枢および末梢神経系の発達と機能において極めて重要な役割を果たす下流のシグナル経路が活性化される.
Trksをコードする遺伝子 †
これらの遺伝子は正常ヒト細胞の生存, 増殖, 分化に重要な役割をはたす, 受容体チロシンキナーゼをコードする.*4
タンパク質は正常の中枢および末梢神経組織と平滑筋に発現している. *5*6
neurotorophinが細胞外ドメインに結合すると, 受容体の生理的活性化により二量化dimerizationとリン酸化が起こる. 続いて, より下流のシグナル経路- phospholipaseC, RAS/MAPK/ERKおよびPI3Kカスケードが活性化される.*4 *7 *8
NTKR1(Neurotrophic tyrosine kinase receptor type1, 局在 1q23.1 )
- 1番染色体, 1q21-22に局在し, 25kb にわたって17エクソン(NCBIでは19 exons)から成る. exon9はalternative spliceがおこる.
- この染色体は1982年に大腸癌で発見された. コードするタンパク質は膜結合受容体で, neurotrophinの結合によりリン酸化をうけ, 次いでMAPKパスウェイをリン酸化する. TRKAタンパク質は細胞分化を促進し, 感覚神経のサブタイプを決定し, 疼痛 体温調節に関与していると考えられている.*9*10
- この遺伝子の変異は congenital insensitivity to pain, anhidrosis, self-mutilating
behaviour, cognitive disability および癌と関連している.
NTRK2
9q21.33に局在し, 24エクソンからなる.3 4 コードするTRKBは, 神経細胞の生存, 増殖, 移動, 分化, シナプス形成, 可塑性をコントロールすることで, 中枢神経および末梢神経の発生や成熟に関与している.
NTRK2は学習, 記憶, 運動, 感情, 食欲体重コントロールに関係し*11, その変異は, 肥満, mood disordersをきたすとされる.
NTRK3
15q25.3に位置し, コードするTRKCは細胞分化や固有受容ニューロンの発達に重要である.
受容体のTRKCは海馬, 大脳皮質, 小脳顆粒層に存在している. 5
機能としては自己受容器感覚(proprioception), 運動制御や身体的自己意識に関わる.
TRK familyとがん †
TRK familyの変異 †
卵巣癌, 結腸直腸癌, 悪性黒色腫, 肺癌などでTRK family geneの変異が報告されている.
- 現状では, NTRK1のin-frame欠損(ΔTRKA)が急性骨髄性白血病(AML)発がんに関与することがわかっており, またNTRK1のsplice variant(TRKAIII)が機能的にneuroblastomaの発がんに関与しているとされている.
- ΔTRKAは, 細胞外ドメインの75アミノ酸を欠いており, 膜貫通ドメインに接する4つの糖化サイトglycosylation siteが除かれている. ΔTRKAはfibroblast, 上皮細胞の両者を転換transformすることが知られている. *12
- TRKAIIIのsplice variant(neuroblastoma cell lineで認められる)は, exon6, 7, 9を失っており, これはIg-like C2-type I(IG-C2)と多数の糖化サイトを喪失していることになる.*13
TRK family oncogenic fusions: 発がんを誘発するTRK familyの融合遺伝子 †
NTRK融合遺伝子陽性のがん. 3つのグループに分類できる. *14
1. がん腫のほとんどにNTRK融合遺伝子が認められるGroup
乳腺, 唾液腺に発生する分泌癌
乳児型線維肉腫
先天性間葉芽腎腫
非常にまれな腫瘍で, ほとんどの症例でETV6-NTRK3 fusionをもつため, その検出は診断的意味をもつ.
2. がん腫の一部(5〜25%)にNTRK融合遺伝子がみられるGroup
乳幼児の高悪性度グリオーマ. 比較的高頻度にNTRK融合遺伝子を認める
non-KIT/ PDGFRA/ GIST(wild type GIST)のうち SDH/ RAS pathwayにも mutation を認めないGIST
甲状腺乳頭癌 (特に小児例), 放射線関連甲状腺乳頭癌
spitzoid腫瘍; Spitz nevus(良性), spitzoid melanoma(悪性), atypical spitz nevus(境界病変)の一部
3. メジャーな通常の癌腫.
融合遺伝子陽性頻度は通常1%未満とまれであるが全体数が多いためNTRK融合遺伝子陽性例の絶対数は必ずしも少なくはない.