T細胞とMHC

T細胞レセプター遺伝子

機能的T細胞抗原レセプター遺伝子は体細胞遺伝子組み換え[somatic recombination(rearrangement)]という過程により胸腺中の未熟T細胞において生成される。生殖細胞由来の, 遺伝的に受け継いだひと組の, DNA配列が元来分離されている状態から酵素を介して介在するDNAの欠失と再連結をうけて1つの遺伝子に再結合される。さまざまな遺伝子セグメントの結合により多様なリンパ球レパトア(レパートリー)が生成される。

抗原レセプターを生成するためのDNA組み換えは抗原の存在に依存しない。つまり抗原レセプターは抗原に遭遇する前に発現している。

成熟途中のリンパ球の生存や増殖, 成熟には抗原レセプターからのシグナル伝達が必要である。

  • 抗原レセプターの発現がみられないリンパ球は初期設定でアポトーシスに陥る。機能的な抗原レセプターをもった有益なリンパ球のみが生成される。
  • プレT細胞段階とよばれる成熟の中間段階では, 未熟なT細胞抗原レセプターが形成される。このプレT細胞レセプターは成熟した抗原レセプター(T細胞のTCR β鎖)に変化しないインヴァリアントなタンパク質が結合して構成されている。未熟なレセプターのリガンドは不明であるがこのレセプターからのシグナルは未熟T細胞の成熟をさらに促すことが知られている。またこのシグナルは成熟過程にある未熟プレT細胞をdeath by neglect(無視による細胞死)と呼ばれるプログラム細胞死から防ぐ大事な働きをしている。
  • プレリンパ球のレセプターは最初の体細胞遺伝子組み換えが成功したことを保証する中間チェックポイントの役割を果たしている。
  • さらに成熟したT細胞においてはTCR α+β鎖の完全な抗原レセプターが発現し, このレセプターからのシグナル伝達が成熟過程の次のチェックポイントとして機能し細胞生存・増殖, 生存過程の継続を促進する。
  • 体細胞遺伝子組み換えはしばしば機能的なIgやTCR遺伝子を生成できず結果的に未熟なB細胞, T細胞のうち90〜95%が抗原レセプターを発現できずアポトーシスにより死滅すると推測されている。
 

TCR遺伝子の構造

TCRα鎖, TCRβ鎖, TCRγ鎖をコードする遺伝子はおのおの, 14番染色体, 7番染色体(7q34), 7番染色体(7p14)の3つの異なる座にありTCRδ鎖はTCRα遺伝子座中(14q11.2)にふくまれている。

Fig. TCRβ遺伝子の構造*1

 
TCRbetaGene01.jpg
 
  • 生殖細胞系のTCR遺伝子はV, J, C遺伝子セグメントをもつ。
  • TCRβ遺伝子座やTCRδ遺伝子座はさらにIgH鎖遺伝子座と同様にDセグメントを含む
  • TCR遺伝子座5'末端には複数のV遺伝子セグメントが存在しIgV遺伝子と類似の配列をしている。このセグメントも配列相同性によりIgV同様, 多数のファミリーに分類できる。
  • 各TCRV領域エキソンの5'末端はシグナル配列である。
  • TCR V遺伝子の3'末端には, C遺伝子セグメント(C gene segments)が存在する。ヒトTCRβ遺伝子座(Cβ1とCβ2)やTCRγ(Cγ1とCγ2)遺伝子座はそれぞれ2個のC遺伝子をもち, TCRα(Cα)やTCRδ(Cδ)遺伝子座は1個のC遺伝子をもつ。
  • 各TCR C遺伝子は4個のエキソンからなりそれぞれ細胞外C領域, 短いヒンジ(蝶つがい)領域, 膜貫通領域, 細胞質内領域をコードしている。
  • すべてのTCR遺伝子座はV遺伝子とC遺伝子の間にJセグメント(J segments)をもち, またTCRβ鎖とδ鎖はJセグメントの5'側にDセグメント(D segments)を持つ。ヒトTCR C遺伝子はおのおのに対応した5'端のJセグメント(とDセグメント)をもっている。
  • TCRα鎖とγ鎖では, V領域はVエキソンとJエキソンにより構成され, TCRβ鎖タンパク質とδ鎖タンパク質の場合, V領域はV,D, J セグメントによりコードされている。
  • Ig分子のようにTCRのV領域とC領域も免疫グロブリン折りたたみ構造を担っておりTCRもIgスーパーファミリーの一員とみなされる。
     
TCRalphadeltaGene.jpg
 
TCRgammaGene.jpg
 
 

γδ型TCRも、また遺伝子再構成により形成される。

  • 少数のT細胞はα, β鎖のかわりに, γ鎖, δ鎖からなるTCRをもっている。TCRγ, TCRδ遺伝子座の構成はTCRα, β鎖の構成と似ているが、その配置が大きく異なっている。
  • δ鎖をコードするすべての遺伝子断片はTCRα遺伝子座内にありVαとJα遺伝子の間に散在している。 Vδ遺伝子断片はVα遺伝子の間に点在しているが, 主にVα遺伝子3'側に位置している。
  • 全Vα遺伝子は遺伝子再構成により介在するDNAを欠失させる方向に配置されているので, α鎖遺伝子座での遺伝子再構成によりδ鎖遺伝子座は失われてしまう。
  • TCRγ, TCRδ遺伝子座におけるV遺伝子断片数はTCRα, βあるいはIg遺伝子座におけるV遺伝子断片数と比較してはるかに少ない。δ鎖の接合部での多様性を増やすことで、V遺伝子数の少なさを代償しており, γδ型TCRの多様性のほぼすべてが接合部領域に集中している。
  • γδTCRでも,αβ型TCRと同様に, 接合部領域をコードしているアミノ酸が抗原結合部位の中心を形成する。

γδ型TCRをもつT細胞の機能は十分には解明されておらず、そのリガンドの多くも不明である。MHC分子による提示や抗原処理を必要とせず直接抗原を認識するγδTCR-T細胞も見つかっている。γδ型TCRの可変部はαβ型TCRの可変部よりも抗体分子可変部により類似していることが再構成後の可変部を詳細に分析することでわかってきた。

 

TCR β鎖遺伝子組み換えと発現

  • 生殖細胞系のIgとT細胞レセプター(TCR)の遺伝子座の構成は体内のすべての細胞に共通である。

TCRβ遺伝子組み換えの例

TCRbetaRe_example.jpg
 
  • 生殖細胞系遺伝子は抗原レセプタータンパク質を生成するmRNAに転写されない。機能的な抗原レセプター遺伝子は発生段階のB細胞, T細胞によってのみ形成され, V, D, Jセグメントを隣接するようなDNA組み換えにより行われる。
  • この体細胞遺伝子組み換えでは適切な遺伝子セグメントを選択し, 各セグメントの末端で2本鎖DNAの切断とその結合により転写可能な遺伝子が形成される。
  • 体細胞遺伝子組み換えでは, 発生中のリンパ球内で1つのV, D, J遺伝子セグメントが選択され単一のV(D)J遺伝子へとまとめられ抗原レセプタータンパク質の可変領域をコードする。
  • DNAと一次RNA転写産物の段階では, C遺伝子はV(D)J遺伝子とはなれたままである。
  • 一次RNAは、その後修飾をうけ, V(D)JセグメントはC遺伝子と隣接するようになり, 転写されて抗原レセプタータンパク質鎖のひとつを生成するRNAとなる。
  • 異なるリンパ球クローンは異なるV, D, J遺伝子の組み合わせをもつ。さらにV(D)J組み換えの際, 塩基が結合部に付加、あるいは除去される。この過程がリンパ球抗原レセプターに特徴的な多様性を生み出す。

Tリンパ球の成熟

コミットされた前駆細胞より成熟Tリンパ球への分化成熟は, TCR遺伝子の体細胞組み換えと発現, 細胞増殖, 抗原刺激による選択, 成熟表現型と機能性の獲得という一連の段階を経て行われる。

  • T細胞の成熟はB細胞成熟と多くの共通点があるが, 自己MHC結合ペプチド抗原にたいする特異性と、その特異性をもったTリンパ球を選択するための特殊な微小環境が必要な点で異なっている。
  • T細胞成熟の主要部位は胸腺Thymusである。-->胸腺のページ
  • 胸腺は成長とともに退縮し成人以後は検出困難となるが, 成人骨髄移植患者において免疫系再構築がおこることから成人後もT細胞成熟が継続していると考えられる。またメモリーT細胞はヒトでは約20年以上の長期寿命をもち時間とともに蓄積するため加齢に伴ってT細胞生成の必要性は低下していく。
  • Tリンパ球は胎児肝と成人骨髄のプレカーサーより発生し胸腺で成熟する。胸腺にはさまざまな系統のプロジェニターが移行するがT細胞プレカーサーのみが生存、成熟する。ヒトでは妊娠7-8ヶ月に未熟リンパ球が胸腺内に確認される。
  • 胸腺内で発達中のT細胞は胸腺細胞Thymocyteと呼ばれる。未熟な胸腺細胞のほとんどはT細胞レセプターとCD4, CD8のcoreceptor(共レセプター)を発現していない。
  • 胸腺細胞は胸腺被膜下洞と外皮質領域に認められる。ここから皮質へ移行, 皮質を通過し、ここで引き続いての成熟過程がおこる。胸腺細胞は皮質において初めてTCRを発現し, その後CD4+クラスIIMHC分子拘束性あるいはCD8+クラスI分子拘束性T細胞へと成熟を開始する。
  • 成熟過程が最終段階に入ると胸腺細胞は皮質から髄質に遊走し, さらに胸腺を離れて体内を循環するようになる。

胸腺内のT細胞移動と選択-->詳しく見る

BIOMED PCR-based TCRβ clonality studies in T-cell malignancies*3

multiplex PCRによるTCRのclonality分析

  • TCRβ遺伝子の再構成は, ほぼすべてのmature T-cell lymphomaだけではなく, CD3-negative T-ALLの80%やCD3+T-ALLの95%で認められる。*4
  • TCR再構成はT細胞系列に厳密に限定しているのではなく, precursor B-ALLの約3分の1の症例に再構成TCR遺伝子が検出されることには注意が必要である。ただしmature B-cell lymphomaでは, その頻度は0−7%とぐっと低頻度になる。*5*6
     
  • TCRβ遺伝子は7q34に685kbにわたり局在している。TCRγ, TCRδ遺伝子と異なり, β遺伝子のV領域はより複雑となっている。約65のVβ遺伝子エレメントが存在し、名称のつけ方には2通り(Ardenら, Weiら)がある。Vβ遺伝子は34のファミリーに分類される。異なる名称のつけ方がRowenらにより提唱され, この30のVβ遺伝子サブグループはIMGTにより採用されている。(IMGT: the international ImmunoGeneTics database-->IMGT web page)
  • Vβ5, 6, 8および13の最大ファミリー(Ardenの名称法)では各々, 7, 9, 5, 8のメンバーを擁する。12個のVβファミリーは1個のメンバーのみとなっている。通常各ファミリーは明瞭に区別されている。
  • Vβ遺伝子エレメントのうち39-47は機能的とされており23個のファミリーに所属している。7-9個の非機能的Vβ遺伝子エレメントはopen reading frameを有している。しかし, splice site, 再結合シグナル, 制御エレメントに変化(alterlations)が認められている。
  • すべての遺伝子エレメントのうち10-16は偽遺伝子である。さらに6個の非機能性, Orphan Vβ遺伝子のクラスターが9p21に認められている。*1 これらの転写物は認められていない。
  • 1個のVβを除いて、すべてがDβ-Jβ-Cβの上流に位置している。Dβ gene(Dβ1, Dβ2)とJβ geneは2つのCβ geneの上流に存在する。Jβ遺伝子クラスターは, 6個(Jβ1.1-1.6), 7個(Jβ2.1-2.7)の機能的Jβセグメントから構成されている。Jβ region lociはシークエンスではなく, 遺伝子の位置により2つのファミリーに分けられている。
  • T細胞発生初期にTCRβの再構成は2つの連続したステップで行われる。第1にDβがJβに再構成し、1-2日の間隔をおいてVβがDβ-Jβに再構成する。*2
  • Dβ1 gene segmentはJβ1またはJβ2に結合するが, TCRBβ鎖の位置の都合から, Dβ2は通常Jβ2のみに結合する。*3
  • 連続する2つのTCRβ D-J clusterが存在するため, ひとつのアレルの上に2つの再構成が検出されうる。つまり不完全なTCRβ Dβ2-Jβ2再構成が, 完全または不完全なTCRβ Dβ1-Jβ21再構成に付加する.
  • TCRβ再構成では, gene segmentの使用頻度はまったくのランダムではない。健康人の末梢血T-cellレパトアにはVβ1-Vβ5が優位に使用されるほか, Vβ11, 16, 18, 23はごくまれにしか使われない。*4
  • Vβレパトアの平均値は年齢を通じて一定であるが, SDは加齢にともなって増加する。
  • 胸腺においても, いくつかのVβが優位に使用される。特に7つのVβ gene, Vβ3-1, Vβ4-1, Vβ5-1, Vβ6-7, Vβ7-2, Vβ8-2およびVβ13-2全機能的TCRβレパトアのほぼ半分近くをしめている。*5
  • Jβセグメント使用も均一ではない。Jβ2 > Jβ1(TCRβ再構成の72% vs 23% )、とくにJβ2.1が最多(24%), 次いでJβ2.2(11%), Jβ2.3, Jβ2.5(各々10%)が多い。
  • T-cell悪性腫瘍の種類によって, TCRβ再構成パターンが異なっている。完全なTCRβ Vβ-Jβ1再構成とTCRβ Dβ-Jβ2 cluster内の不完全再構成アレルがTCRαβ-positive T-ALLに多く認められる。CD3-negative T-ALLやTCRγδ-positive T-ALLよりも多い。
  • T-ALLすべてのグループのうちでTCRβ Dβ-Jβ1領域の再構成がprecursor-B-ALLでのcrosslineage TCRβ gene再構成にくらべて相対的に多くなっている。precursor-B-ALLでは, TCRβ Dβ-Jβ2領域が独占的に再構成されている。
  • TCRγでは結合部の違いが限られており、クロナリティの判定に正常リンパ球のバックグラウンドが大きくでてしまう。またTCRδ遺伝子は, ほとんどのmature T-cell malignanciesでは消えてしまっている*6ため、TCRβ遺伝子の分析が必要になっている。

Bacterial Superantigen

微生物が生成するスーパー抗原(Bacterial Superantigens)という物質は特定のVβファミリーのメンバーにコードされるあらゆるTCRβV領域に結合する。このためスーパー抗原は多数のT細胞を活性化し重大な疾患を引き起こす可能性がある。


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*4
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*1  分子細胞免疫学 原著第5版 Elsevier Japan Tokyo Japan
*2  van Dongen JJM, et al., Design and standardization of PCR primers and protocols for detection of clonal immunoglobulin and T-cell receptor gene recombinations in suspect lymphoproliferations: report of the BIOMED-2 Concerted Action BMH4-CT98-3936. Leukemia. 2003 Dec;17(12):2257-317.
*3  van Dongen JJM, et al., Design and standardization of PCR primers and protocols for detection of clonal immunoglobulin and T-cell receptor gene recombinations in suspect lymphoproliferations: report of the BIOMED-2 Concerted Action BMH4-CT98-3936. Leukemia. 2003 Dec;17(12):2257-317.
*4  Langerak AW et al, Detection of T cell receptor beta (TCRB) gene rearrangement patterns in T cell malignancies by Southern blot analysis.Leukemia. 1999 Jun;13(6):965-74.PMID:10360387
*5  Szczepanski T, et al., Lymphoma with multi-gene rearrangement on the level of immunoglobulin heavy chain, light chain, and T-cell receptor beta chain. Am J Hematol. 1998 Sep;59(1):99-100.PMID:9723588
*6  van Dongen JJM. et al., Analysis of immunoglobulin and T cell receptor genes. Part II: Possibilities and limitations in the diagnosis and management of lymphoproliferative diseases and related disorders. Clin Chim Acta. 1991 Apr;198(1-2):93-174.PMID:1863986

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Last-modified: 2015-06-29 (月) 17:02:12 (1234d)